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お寺の通学路

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中野 明子さん
2010年卒/文学部人文学科
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2017.8.30
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お寺の通学路

 大学時代の通学にまつわる思い出というと、何よりもまず思い出されるのは、衣笠キャンパスから南へ一キロほど下った妙心寺だ。
 大学入学が決まってすぐ、親とともに上京して下宿先を探し回り、JR花園駅前のアパートに部屋を借りた。家賃や利便性、部屋の広さなどあれこれと散々議論しながら探したものの、最後の決め手は、徒歩数分にある妙心寺南門からの境内の眺めであった。
 九州の田舎から出てきた私には、京都といえば寺社がそこかしこにあるんだろうなぁといった、何とも情けないほどぼんやりとした意識しかなかった。
 「すぐ近くにね、とっても立派なお寺がありますから、一度行ってみてくださいね」と大家さんに勧められ、散歩がてらお寺の白壁を横目に、試しに妙心寺の南門から入ってみた。門を潜り抜け、一歩境内へと足を踏み入れて驚いた。大方丈へと一直線に向かう石道、丁寧に選定された松の並びを目で追いながら視点を上げると、方丈の上に抜けるように広がる青い空。私は眼前のパノラマに、しばしポカーンとしてしまった。
 それまで地元にあるお寺といえば、せいぜい子どもが駆け回るか、年寄のお散歩にちょうどいい広さで、それくらいが当たり前だった。それが、まさかお寺でパノラミックな眺望を実感するとは思ってもみなかった。後で調べてみると、妙心寺の広さは十万坪近くもあった。当時は、はじめて目にする大本山のスケールに、これが「京都」か! と素直に感動したのを覚えている。
 下宿を始めてからの四年間、妙心寺は私の通学路になった。毎日、眠気眼で自転車にまたがって、南門から北門へと通り抜けて大学へ通った。境内の石畳は見た目よりも凹凸があり、自転車でバランスをとるのが意外と難しい。加えて、北門まではなだらかな坂道になっており、うまく走るには体力とコツがいる。
 最初は、お寺を自転車で通り抜けるだけなんて、何だか申し訳ないような気がして、境内は押して通っていた。けれど、朝夕問わず近所のおじさんや、子供を後ろに乗せたお母さんが、颯爽と自転車で走り抜ける姿を見るうちに、そこが地域の一部なのだと感じるようになった。特別に用がなくとも、ただ通り過ぎるだけでもいいのだと。以来、石畳の道を走り慣れるにつれ、学生生活にもだんだんと馴染んでいったように思う。学生だろうがなんだろうが、妙心寺はいつも誰でも迎えてくれる。都合がよすぎるけれど、そんな風に感じていたのだと思う。
 卒業してからは車で門前を走るくらいで、ほとんど境内には足を踏み入れていない。今度行くときはぜひ自転車で、と思っている。ガタガタと車輪が上下に弾むたびに、眠った思い出の一コマが飛び起きてくれる気がする。

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